日本では狂犬病を撲滅することができたが、世界では未だ流行が続いており毎年5万人以上の人が命を落としている。
狂犬病の診断に確立されたものはなく、現在も研究が続けられている。その中でも2005年にタイ赤十字研究所のVeera博士より報告された臨床診断の手法は94.6%と高い精度で診断することが可能である。
タイ赤十字研究所の臨床診断法
タイ赤十字研究所では、狂犬病疑い犬が次の6項目に当てはまるかどうかを順に確認することで診断を行う。
1.咬傷事故を起こした時点でのイヌの年齢
狂犬病の潜伏期は2~6週間であるため、生後1ヶ月未満である場合は狂犬病の診断から外す。
2.観察開始までの疾病の維持期間
狂犬病は症状を示してから10日以内に死亡するため、それより長く生存している場合は狂犬病の診断から外す。
3. 症状の進行の具合
狂犬病は段階を踏んで徐々に進行する。そのため、突然狂躁期の症状を示す場合は狂犬病の診断から外す。
4. 観察開始から3~5日間の臨床経過
狂犬病は徐々に進行し回復することはないため、状態が安定したり回復している場合は狂犬病の診断から外す。
5. 失明したかのような旋回運動の有無
目が見えていないように檻にぶつかりながら旋回している場合は、別の疾患である場合が多いため、狂犬病の診断から外す。
6. 17徴候のうち、2項目以上の該当
後述する17徴候の2つ以上に当てはまる場合は狂犬病である確率が高い。これらの症状は正常犬や他の疾患にもみられる場合があるが、1~5による振り分け後に観察することで、高い確率で狂犬病を診断することが可能である。
…臨床診断の17徴候…
1. 下垂した下顎:麻痺のため下顎が下がり、開口した状態。
2. 鳴き声の異常:特徴のある、声が枯れたような鳴き声
3. 乾燥してぶら下がった舌:暗赤色~橙赤色の、乾燥して垂れ下がった舌。舌の汚れ。
4. 自分の尿を舐める
5. 水の異常な舐め方:嚥下困難や舌麻痺により繰り返し飲もうとする行動。
6. 吐き戻し:吐き戻し、窒息状態、前足で口の周りを引っ掻く行動。
7. 異常行動:これまでにみられなかった異常な行動をとる。
8. 異嗜:石・木片などを好んで食べるようになる。
9. 攻撃:直近3日間での非常に攻撃的な行動。
10. 理由ない咬みつき
11. 理由無く走る:やたらに外や家の周囲を走り回る行動。夜間の不眠。
12. 歩行時の硬直:走行中または歩行中の両後肢の硬直。
13. 落ち着きのなさ
14. 檻などを咬む
15. 嗜眠:静かにしているときの嗜眠傾向。
16. 歩行時のふらつき:両後肢の不全麻痺による平衡失調。
17. 頻繁な犬座姿勢:
先に述べた17徴候の症状と、これまで日本で用いられてきた臨床診断の基準を比較すると多くの共通点がみられる。
2.鳴き声の異常、3.乾燥してぶら下がった舌、8.異嗜、9.攻撃、10.理由ない咬みつき、13.落ち着きのなさ、14.檻などを咬む、15.嗜眠、16.歩行時のふらつきは1879年から一貫して記述があるため、これらの症状が狂犬病に特徴的で、古くから診断に活用されてきたと考えられる。